独立行政法人労働者健康安全機構総合せき損センター

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書籍『脊椎脊髄損傷アドバンス改訂第2版』

脊椎脊髄損傷アドバンス
総合せき損センターでの長年の治療経験をまとめた実践書です。

当センターでの長年の治療経験をまとめた実践書です。

平成18年8月に南江堂から発行され、平成20年5月に第2刷が発行されました。

今改訂では、前版刊行後に行われた疫学調査、症例数が増加した骨粗鬆症性椎体骨折、再生医療の各項目を新たに追加しました。
また、「診断と評価」と「治療戦略」の項目を部位別にまとめ、一連の流れがいっそうわかりやすくなりました。

序文

2006 年に初版が刊行されて以来、本書は実践的な脊損診療マニュアルとして好評をいただいてきました。急性期から慢性期にいたる一貫した医療経験の蓄積を基に、同一施設の現場スタッフによる血の通った内容を有していることがその最大の特長であると自負しています。しかし、すでに初版から 16 年の歳月が経過し、この間数多くの知見が集積され、脊椎脊髄損傷医療は少なからず変化しています。「アドバンス」という名前にふさわしい、update した内容を盛り込んだ全面改訂版を作るという故 芝啓一郎前院長の遺志を引き継ぎ、ようやくここに、改訂第 2 版を上梓することができました。

この 16 年間に脊椎脊髄損傷医療を取り巻く「潮流」は確かに変化しています。新たな分類が提唱され、手術の方法、適応は微妙に変化し、そしてより早期の脊髄除圧の効果を示す報告が注目を集めています。一方では早期手術に対して疑問を呈する報告もあり、さらに胸・腰椎損傷においては、脊髄の早期除圧というよりも全身状態の管理に重きをおいて二期的手術を行うダメージコントロールの考え方が主流となっています。また、再生医療においてもさまざまな試みが実施されており、一部実用化の道も開かれてきましたが、その検証はまだこれからの課題です。巷に溢れる報告や論文、レビューは時として何が正解で何が間違っているのか、脊椎脊髄外傷にたずさわる我々を今なお惑わせ、現時点での「潮流」が果たして将来のスタンダードになっていくのかさえ必ずしも明確ではありません。

外傷性の脊髄損傷発生率は 100 万人当たり年間 50 人程度であり、しかもその程度や予後は千差万別です。一般の脊椎外科医が遭遇する外傷性脊椎脊髄損傷の症例数は限られており、個々の症例において自身の選んだ治療選択肢が最善のものであったか内省することも少なくないでしょう。特に、全身管理、リハビリテーション、看護も含めた総合的治療が極めて重要となる重度脊髄損傷においてはなおさらです。総合せき損センターでは、これまで 3,000 例以上の急性期脊椎脊髄損傷の経験を有しており、詳細なデータベースの蓄積は 1,000 例以上に及んでいます。これらの知見は、急性期から慢性期まで、緊密なチーム医療の中で患者を見つめながら培ってきたものです。この改訂版は、これまで蓄積された経験を踏まえながら新しい知見を十分に盛り込んだ、全く新しい『脊椎脊髄損傷アドバンス』となりました。脊髄損傷医療における国内外の「潮流」を意識しつつも、現場感覚の「地に足がついた」実践本になっていると確信しています。

この度の改訂は、当初故 芝啓一郎前院長により発案企画されましたが、上梓まで実に 5 年以上の月日を要しました。執筆してくださったスタッフはもちろんのこと、執筆者との調整等にご尽力いただいた南江堂の仲井丈人氏、山本奈々氏をはじめとした編集部の皆様方のご尽力に心より感謝致します。この改訂版を、脊髄損傷医療の普及に情熱を傾けておられた故 芝啓一郎先生に捧げたいと思います。

2023(令和 5)年春
前田 健

主要目次

  1. 疫学
    • わが国における脊髄損傷の現状
    • 脊髄損傷データベース
  2. 急性期から慢性期までの治療の流れ
    • 総合せき損センターの特色
    • 急性期の診断と治療
    • 予後および脊髄損傷後遺症についての告知とその時期
  3. 麻痺の評価とその予後
    • 脊髄損傷の分類
    • 麻痺の評価法
    • 脊髄ショックの意義
    • 麻痺の自然経過
    • 急性期の麻痺評価における問題点―治療結果に関する議論が噛み合わない原因は何か?
    • 損傷脊髄に対する治療は麻痺の経過に影響を与えるか?
    • 診察におけるポイントと簡便な診察法(knee-up test)
  4. 急性期における全身への影響とその管理
    • 呼吸器系―呼吸障害による痰の貯留に注意
    • 循環器系―低血圧に過剰輸液は危険(出血性ショックではない)
    • 血栓症―下肢の腫脹に注意
    • 消化器合併症―潰瘍は見逃しやすい
    • 高血糖と麻痺の関連―高血糖は麻痺増悪因子
  5. 下部尿路機能障害
    • 蓄尿と排尿の生理―神経系と下部尿路機能
    • 神経因性膀胱
    • 急性期から回復期の排尿管理
    • 慢性期の尿路管理―3 つの目標
  6. 画像診断
    • 当センターでの画像診断の流れ
    • 単純X線
    • CT
    • MRI
  7. 頚椎損傷
    • 上位頚椎損傷
    • 中下位頚椎損傷
  8. 非骨傷性頚髄損傷
    • 非骨傷性頚髄損傷に関する問題点
    • 当センターにおける治療の変遷
    • 今後の課題
  9. 胸・腰椎損傷
    • 脊髄と馬尾損傷
    • 損傷型分類
    • 手術適応―Thoracolumbar Injury Classification and Severity Score(TLICS)から Thoracolumbar AOSpine Injury Score(TL AOSIS)へ
    • 破裂骨折
    • 脱臼骨折
  10. 骨粗鬆症性椎体骨折
    • 病態と診断
    • 保存的治療―どのような外固定が best か?
    • 偽関節と遅発性神経麻痺
    • 椎体骨折後の後弯変形
  11. 特殊な脊椎に起因する脊椎脊髄損傷
    • 小児の脊髄損傷
    • 強直性脊椎に合併した脊椎脊髄損傷
  12. 慢性期の諸問題
    • 全身
    • 四肢・体幹
    • 社会復帰支援
  13. リハビリテーション
    • リハビリテーションの実際
    • リハビリテーションの課題
  14. 看護法
    • 排痰介助を含めた呼吸管理
    • 排泄管理
    • 食事介助
    • 体位管理と褥瘡予防―時間を決めた体位変換,棒坐などの道具の使い方
    • 体温管理―頚髄損傷患者のうつ熱をいかに予防するか? 通常の発熱との鑑別点
    • 移乗介助―移動用リフト(リフター)を利用すれば安全かつ介護者の負担にならない
    • 心理的サポート―医師だけではカバーできない患者の心理的側面にいかに寄り添うか?
    • 自宅復帰に向けた家族指導
  15. 脊髄損傷医療の現状と課題
    • わが国における脊髄損傷医療環境の現状
    • 脊髄損傷医療経済
  16. 脊髄損傷治療研究の現状―薬物ならびに細胞移植療法
    • 脊髄損傷の病態
    • 薬物療法研究の現状
    • 細胞移植研究の現状
    • 患者を取り巻く環境

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